はじめての農業

高設栽培とは?かがまずできる家庭菜園の始め方と費用


高設栽培とは?かがまずできる家庭菜園の始め方と費用
📑 目次

※本記事はプロモーションを含みます。

牛飼い君
畑仕事は好きなんですが、しゃがむのがだんだんきつくてね。「高設栽培」というのを聞いたんですが、あれは農家さん向けの話でしょう?
牛飼い君
さんぼう君
さんぼう君
半分は当たりで、半分は違うんだ。イチゴ農家の大がかりな設備も高設栽培だけど、考え方そのものは、庭やベランダでもそのまま使えるよ。要は「畑のほうを持ち上げる」だけだからね。

草取りも収穫も、しゃがむ姿勢がこたえるようになってきた」 「高設栽培という言葉は聞くけれど、家庭でできるものなのか分からない

家庭菜園を長く続けている方から、この二つはよく聞く。とくに定年後に本格的に始めた方ほど、体力ではなく姿勢で先に音を上げる。菜園そのものが嫌になったわけではないのに、腰をかがめる時間が増えると足が遠のいてしまう——これは本当にもったいない。

私は飼料と資材の代理店営業を13年やり、農家の庭先を数百軒まわってきた。実家は和牛の繁殖と野菜だ。その中で、産地のイチゴのハウスが土の畝から腰の高さのベンチへ切り替わっていったことは、資材の動きとしても伝わってきた。理由は単純で、そうしないと人が続かないからだ。

この記事では、その高設栽培という考え方を、家庭菜園にそのまま持ち込む方法を整理する。県の試験研究報告と国の指針で裏を取ったうえで、費用と手間の現実も正直に書く。煽らない。判断材料だけ渡す。

先に結論。高設栽培の要点4つ

① 高設栽培=作物を地面より高い位置で育てる方式。プロのイチゴのベンチ栽培も、家庭のレイズドベッドや脚付きプランターも、同じ発想の仲間だ。

② 最大の利点は「かがむ動作が減ること」。長崎県の研究報告では、地床栽培の収穫作業は時間の88%程度が30度以上の前屈だったのに対し、高設栽培では20度以下が99.1%だったとされている。

③ 弱点は費用・土の量・乾きやすさ。とくに土は思っている以上にいる。90cm角・深さ30cmの枠なら培養土は約243リットルだ。

④ 家庭で試すなら、まず「今のプランターを台に乗せる」。0円に近い方法で高さの正解を確かめてから、枠や脚付きに投資すればいい。

⚠️ 本記事は2026年8月時点の公開資料をもとにした一般的な整理です。栽培の適期・方法は地域・気候・品種で変わります。また、腰や膝に痛み・持病がある方は、作業内容について必ず医師にご相談ください。本記事は健康効果を保証するものではありません。

この記事でわかること

  • 高設栽培とは何か。プロの設備と、家庭でできるものの違い
  • 「かがまない」がどれくらいの差になるのか、研究報告の数字
  • メリット4つと、先に知っておくべきデメリット4つ
  • 高さを何cmにすればいいか、その決め方の根拠
  • 家庭でやる3パターンと、0円に近い試し方
  • 必要な土の量と重さ。ベランダに置くときの注意
  • 高設に向く野菜・向かない野菜

高設栽培とは──「畑を持ち上げる」栽培方法

高設栽培(こうせつさいばい)とは、作物を地面ではなく、地面より高い位置に設けた栽培床(ベンチ・ベッド)で育てる方式のことだ。土の畝で育てる従来のやり方は「地床栽培(じどこさいばい)」「土耕」と呼ばれ、その対になる言葉として使われる。

言葉としては農業の専門用語だが、中身はきわめて素朴だ。人がかがむのをやめて、畑のほうを持ち上げた。それだけである。

そして高設栽培には、規模のまったく違う二つの顔がある。

プロの高設栽培──イチゴのベンチ栽培

日本で高設栽培といえば、まずイチゴだ。ハウスの中に発泡スチロールや樹脂の栽培槽(ベンチ)を腰の高さに並べ、その中に培地を詰めてイチゴを植える。かん水は点滴チューブで自動的に行うのが一般的で、培地にはピートモス・ヤシガラ・鹿沼土・バーク堆肥などを配合したものが使われる。

なぜそこまでするのか。長崎県の研究報告は、その動機をはっきり書いている。イチゴは親株の定植から収穫終了まで1年半と長く、10アール当たりの所要労働時間は2,000時間以上。しかもその多くが「窮屈な中腰姿勢」を強いられる作業だった。生産者の高齢化と後継者不足のなかで、この姿勢の問題を解かないと産地が続かない——だから高設栽培システムの開発が全国で進んだ。

普及の度合いも数字で確認できる。農林水産省の「園芸用施設の設置等の状況(平成30年)」によると、園芸用施設で栽培されたいちごの栽培延面積は全国36,972千平方メートル(約3,697ヘクタール)。このうち高設栽培の多くが該当する「養液栽培」のいちごは栽培延面積7,230千平方メートル(約723ヘクタール)で、面積のおよそ2割にあたる。イチゴのハウスの面積の5分の1は、すでに土の畝ではないということだ。

家庭の高設栽培──レイズドベッドと脚付きプランター

一方、家庭菜園で「高設」といったときに指すのは、次のようなものになる。

呼び方どんなもの高さの目安
レイズドベッド(花壇型)木枠・樹脂・アルミの枠を地面に置き、中に土を入れる20〜40cm(腰かけて作業)
脚付き・スタンド型プランタープランターに脚が付き、立ったまま作業できる70〜90cm
台に乗せたプランター今あるプランターを花台・ラック・ブロックに乗せる置き台しだい
ベンチ型の自作枠単管パイプやブロックで架台を組み、上に栽培槽を載せる自由

この4つは、どれも「地面より高い位置で育てる」という一点で共通している。プロの設備と家庭のレイズドベッドは、規模と自動化の程度が違うだけで、狙いはまったく同じだ。

牛飼い君
なるほど、要は高さの問題なんですね。でも「立ったまま作業できます」というのは、どのくらい違うものなんでしょう。
牛飼い君
さんぼう君
さんぼう君
そこは感覚で語らないほうがいい。ちゃんと測った研究があるから、その数字を見てみよう。

数字で見る「かがまない」の効果

長崎県の総合農林試験場が2009年に公表した研究報告には、高設栽培と地床栽培の収穫作業の姿勢を実際に測った結果が引用されている。

  • 地床栽培:作業時間の88%程度が、30度以上の前屈作業
  • 高設栽培20度以下の姿勢が99.1%。ほとんどが立ったままの歩行作業

同じ収穫という仕事でも、体の使い方がまるごと入れ替わっている。報告はここから、「他の多くの中腰姿勢で行う管理作業も、高設栽培の導入によって、ほとんどが立ったままの作業であることを類推できる」と述べている。

この「前屈・中腰を減らす」という方向性は、農業に限った話ではない。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」は、腰痛の動作要因のひとつとして「前屈(おじぎ姿勢)、ひねり及び後屈ねん転(うっちゃり姿勢)等の不自然な作業姿勢をしばしばとること」を挙げ、対策として「前屈、中腰、ひねり、後屈ねん転等の不自然な姿勢を取らないようにすること」「不自然な姿勢を取らざるを得ない場合には、前屈やひねり等の程度をできるだけ小さくし、その頻度と時間を減らすようにすること」と明記している。

ここははっきりさせておきたい。高設栽培にしたから腰痛が治る、という話ではない。そういう効能をうたうつもりは一切ない。言えるのは、かがむ動作の回数と時間を、作業のしかたそのもので減らせるということだけだ。ただ、菜園を10年続けるかどうかを分けるのは、たいていその「だけ」の部分である。

高設栽培のメリット4つ

① かがむ・しゃがむ動作が減る

最大の理由がこれだ。とくに効くのは、時間の長い作業である。収穫は数分で終わっても、草取り・わき芽かき・追肥・水やりは何十分と続く。この長い時間を立ったまま、あるいは腰かけたままこなせるようになる意味は大きい。

② 水はけがよくなる

高設のベッドは底や側面から余分な水が抜けるため、過湿になりにくい。粘土質で水がたまりやすい庭、雨のあと何日もぬかるむ場所では、この差がそのまま生育の差になる。地面の土質が悪くても、上に良い土を入れれば作れるのも利点だ。

③ 地面を這う虫・雑草の侵入が減る

ナメクジ、ダンゴムシ、ワラジムシといった地面を這って近づく生き物は、高さがあるだけで到達しにくくなる。周囲から侵入してくる雑草の地下茎も、枠で仕切られた分だけ入りにくい。ただし——

ゼロにはならない。これは正直に書いておく。脚をつたって上がってくる虫もいるし、飛来するアブラムシやコナジラミには高さは関係ない。そしてシカやイノシシ、サル、ハクビシンのような獣には、腰の高さの柵など何の抑止にもならない。農林水産省の集計では、令和6年度の野生鳥獣による農作物被害は全国で188億円、被害面積は4万4千ヘクタール。うちシカが79億円、イノシシが45億円だ。獣が出る地域なら、高設とは別に対策がいる。

④ 管理範囲がはっきりして、手が届く

枠で区切られた分だけ、「ここだけ面倒を見ればいい」という範囲が目に見える。これは心理的にかなり効く。広い畑を前にすると気が重いが、90cm角のベッドひとつなら、朝の10分で一周できてしまう。手が届く範囲に収まっていることが、続ける力になる。

高設栽培のデメリット4つ(先に知っておく)

良いことばかり書く記事は信用しなくていい。弱点は4つある。

① 初期費用がかかる

普通のプランターなら千円台から始められるが、レイズドベッドの枠、あるいは脚付きプランターとなると、そこに枠代・脚代が上乗せされる。さらに、後述する土代が想像以上にかかる。「まず1鉢」で始められる家庭菜園に比べれば、明確に敷居は上がる。

プロの世界でも事情は同じで、前述の長崎県の報告は、全国で開発された高設栽培について「ロックウール等の培地を使用した養液栽培がほとんどで、生産の不安定、コスト高などによる収益性の低下が普及上の大きな障害となっている」と書いている。長崎県型のシステムは、この費用の壁を下げるために開発されたものだ。

② 土が乾きやすい

高設のベッドは、地面と切り離されている。つまり地下からしみ上がってくる水(毛管水)が期待できない。地植えなら多少水やりを飛ばしても地中の水分でしのげるが、高設ではそれがない。夏場は1日2回の水やりが必要になる日もあると考えておきたい。

土の量が少ないほど、この傾向は強くなる。長崎県の試験では、培養土量を1株あたり4.8リットルとした対照区に対し、2/3(3.2リットル)・1/2(2.4リットル)に減らした区では収量が下回った。土を減らせば軽く安くなるが、そのぶん乾きやすく、余裕がなくなるという関係だ。

③ 土の量と重さがばかにならない

これは項を改めて詳しく書く。ここでは「思っているより桁が大きい」とだけ言っておく。

④ 深く根を張る野菜には向かない

ダイコン・ゴボウ・ナガイモのように、地中深くへまっすぐ伸びる野菜は、ベッドの深さがそのまま限界になる。深さ30cmのレイズドベッドで長い大根を狙うと、途中でつかえて曲がる。作れる品目に線が引かれるのは、はっきりした弱点だ。

高さは何cmにするか──肘が90度になる高さ

ここが一番の設計ポイントで、しかも多くの人が適当に決めてしまうところだ。

判断のよりどころは、前出の厚生労働省の指針にある。作業姿勢について、指針はこう書いている。「作業台や椅子は適切な高さに調節すること。具体的には、立位、椅座位に関わらず、作業台の高さは肘の曲げ角度がおよそ90度になる高さとすること」

これを菜園に翻訳すると、こうなる。

高さの決め方

立ったまま作業したいなら……土の表面が、腕を下ろして肘を90度に曲げたときの手のあたりに来る高さ。多くの人で床から70〜90cmの範囲に入る。参考までに、長崎県型のイチゴ高設栽培システムは株元の面がおおむね80cmになる高さに設置されていた。

腰かけて作業したいなら……ベッドの縁に腰かけられる40cm前後。縁の幅を広く取ると、そのまま座面になる。

迷ったら低いほうから……高すぎると土をいじりにくく、風で倒れやすく、水も乾きやすい。高ければ高いほど良いわけではない

自分に合う高さは、身長でも年齢でもなく実測で決まる。次に書く「0円の試し方」で、先に確かめてしまうのが早い。

家庭でやる3パターン(+0円で試す方法)

パターン0:今あるプランターを台に乗せる(費用ほぼ0円)

いきなり枠を買う前に、これをやってほしい。使っていない木箱、コンクリートブロック、園芸用のラック、古い椅子——何でもいい。今使っているプランターを乗せて、1週間だけ世話をしてみる。

これで分かることが3つある。自分に合う高さ水やりがどれだけ増えるかその場所で本当に作業しやすいか。この3つを実地で確かめてから投資したほうが、失敗が圧倒的に少ない。転倒だけは危ないので、台は必ず安定したものを選んでほしい。

パターン1:脚付き・スタンド型プランター(手軽さで選ぶ)

金属やプラスチックの脚に、細長い栽培槽が載った既製品だ。組み立てが簡単で、置くだけで立ち仕事の菜園ができる。ベランダや玄関先など、狭い場所に向く。

弱点は土の量が少ないこと。製品にもよるが深さ20cm前後の浅めのものが中心で、そのぶん乾きが早い(容量は商品ページで必ず確認を)。葉物・ハーブ・イチゴ・ラディッシュのような浅根の作物と相性がいい。

Amazonで「プランター スタンド 脚付き」を見る(PR)

パターン2:レイズドベッドのキット(土の量で選ぶ)

木製・樹脂製・アルミ製の枠を組み立て、中に土を入れるタイプ。土の量を大きく取れるのが最大の利点で、乾きにくく、根の張る野菜にも対応できる。高さ30〜40cmのものが多く、縁に腰かけて作業する使い方になる。

選ぶときに見るのは、次の4点。

見る点判断の目安
高さ立って使うか、腰かけて使うか。用途を先に決める
素材木は風合いが良いが数年で傷む。樹脂・アルミは長持ちで軽い
底の構造底なし(地面に直置き・水が抜ける)か、底ありか。ベランダなら底あり+受け皿
組み立て工具が要るか、力がいるか。一人で組めるか
Amazonで「レイズドベッド 家庭菜園」を見る(PR)

パターン3:自作(費用と自由度で選ぶ)

コンクリートブロックを積んで枠にする杉板とビスで箱を組む単管パイプで架台を作って上に栽培槽を載せる——どれも実際に農家がやっている方法だ。高さも大きさも自由に決められ、材料費だけで済む。

ただし条件がある。土を入れたベッドは相当に重い。組み方が甘いと、数か月後に横板がふくらんで開いてくる。木で作るなら、外側に補強の縦桟を入れるか、中央を横に締める金具を入れておきたい。作業中の転倒・落下にも注意してほしい。ここは無理をせず、体力に自信がなければキットを選ぶのが賢明だ。

土は何リットル要るか──ここが一番の落とし穴

高設栽培でいちばん見落とされるのが、この土の話だ。数字で見てほしい。

ベッドの大きさ必要な土の量25リットル袋で目安の重さ(乾いた状態)
90cm×90cm×深さ30cm約243リットル約10袋およそ70〜120kg
120cm×60cm×深さ30cm約216リットル約9袋およそ65〜110kg
60cm×30cm×深さ20cm(脚付き)約36リットル約1.5袋およそ10〜18kg
標準65cmプランター(参考)約12〜15リットル(深型は20リットル前後)1袋以下およそ4〜8kg

※重さは培養土の比重をおおむね1リットルあたり0.3〜0.5kgとして計算した概算。水を含めばさらに重くなる

つまり、枠を買うお金と同じくらい、あるいはそれ以上に土代がかかるということだ。ここを知らずに大きな枠を買うと、あとから「土がこんなに要るのか」と青くなる。これは実際によく聞く話である。

対策は3つ。

  1. 最初は小さく作る。90cm角より、60cm×90cmのほうが失敗の傷が浅い
  2. 底のほうにかさ上げ材を入れる。根が届かない深さの部分は、鉢底石や剪定枝、軽石で埋めて土を節約する方法がある。ただし浅根の野菜向けの工夫で、根が深く張るものには使えない
  3. 土は使い捨てない。長崎県型の高設栽培システムでは、培養土は収量性と土壌の化学性の面から10年程度は連用可能と結論づけられている。家庭でも、毎年入れ替えるのではなく、堆肥や肥料を足しながら使い続けるのが基本だ
Amazonで「培養土 野菜 大容量」を見る(PR)

ベランダに置くときは、重さを一度考える

建築基準法施行令第85条の積載荷重の表では、住宅の居室、そして屋上広場またはバルコニーの床について、床の構造計算に用いる値が1平方メートルあたり1,800ニュートン(重さにしておよそ180kg)と定められている。設計上の想定値であって、そこまで載せてよいという保証ではない。

前の表で見たとおり、大きめのレイズドベッドは土だけで100kgを超える。ベランダに置くなら、大型のものは避け、小型を分散して置くほうが安全だ。集合住宅なら、避難経路・排水口をふさがないことも含めて、管理規約の確認をおすすめしたい。庭があるなら、迷わず地面の上に置いてほしい。

高設に向く野菜・向かない野菜

高設栽培に向くかどうかは、根の深さ作物の大きさでほぼ決まる。

向き野菜理由
◎ とても向くイチゴプロが高設に移った本命。実が土に触れず、収穫が立ったままできる
◎ とても向く葉物(小松菜・リーフレタス・ほうれんそう)浅根で短期。収穫回数が多いほど姿勢の差が効く
◎ とても向くハーブ(バジル・大葉・パセリ)浅根で丈夫。摘み取りの頻度が高い
○ 向くラディッシュ・カブ浅根で早い。深さ20cmあれば十分
○ 向くミニトマト・ピーマン深さ30cm以上と支柱が要るが、収穫がとにかく楽になる
○ 向くインゲン・エダマメ背が高くなりすぎず、収穫の姿勢が改善する
△ 条件つきナス・キュウリ水を多く欲しがるので、乾きやすい高設では水やり設計が要る
× 向かないダイコン・ゴボウ・ナガイモ深く長く伸びるため、ベッドの深さで頭打ちになる
× 向かないスイカ・カボチャ・サトイモつるが広がる、または水を大量に要求する

背の高くなるミニトマトやキュウリを高設で作るときは、注意が一つある。ベッドの高さぶん、作物の頂点も高くなる。80cmのベンチに1.5mまで伸びるトマトを植えれば、てっぺんは2.3mだ。誘引や摘心で脚立が必要になっては本末転倒なので、高設で背の高い野菜を作るなら、低く仕立てる(早めに摘心する)のが定石になる。支柱も、ベッドの縁にしっかり固定できるものを選びたい。

乾かさないための水やり設計

高設栽培でつまずく原因の第1位は、費用ではなく水切れだ。前述のとおり地下から水が上がってこないので、地植えの感覚のままだと必ず足りなくなる。

現場で使える対策を4つ挙げる。

  1. 土の表面を覆う……ワラ、バークチップ、刈った草を敷くだけで、蒸発がはっきり減る。イチゴなら実が汚れない副次効果もある
  2. 朝にたっぷり、底から流れ出るまで……ちょろちょろと表面を湿らせる水やりは、根が上のほうにしか張らなくなる。夏の猛暑日は、朝夕2回になる日もあると織り込んでおく
  3. 深さと土量に余裕を持たせる……乾燥対策としていちばん効くのは、実は土の量だ。長崎県の試験でも、培養土を減らした区は収量が下回った
  4. 留守にする日を先に想定する……旅行や入院で数日空けるなら、自動潅水のタイマーか、水を溜める底面給水タイプを最初から選ぶ。プロが点滴チューブを使うのは、それが確実だからだ

暑い時期の作業そのものについては、姿勢の話とは別に用心がいる。無理をしないための道具は、こちらにまとめている。

さんぼう君の現場メモ:設備は「続けるため」に入れる

高設栽培が広がった理由として現場で語られるのは、収量の話ではない。「一日の終わりの体が違う」——県の報告が示す作業姿勢のデータ(前屈30度以上が88%→20度以下が99.1%)は、この実感を裏づけている。

土の畝でイチゴを穫るというのは、何時間も中腰でしゃがみ、立ち上がり、また腰を落とす作業の連続になる。若いうちは根性で乗り切れても、50代、60代になると、それが翌日の作業量を決めてしまう。高設に替えた人は、同じ時間働いても、翌朝もう一度ハウスに入れる。設備投資の本当の効果は、その日の収量ではなく、来年も続けられるかどうかに出る

家庭菜園も同じだと思う。家庭菜園に収量目標はないが、「続くかどうか」だけは同じ問題だ。年に何回、菜園に出るのが億劫になるか。その回数を減らすためにお金を使うのは、私はまっとうな投資だと思っている。

実家の親も、年をとってから畑仕事のやり方を変えた。全部を一度に見ようとせず、家の近くの手の届く区画だけを丁寧に作るようになった。規模を落として、密度を上げる。高設栽培は、この考え方と相性がいい。90cm角のベッド一つは、畑からすればおもちゃのような面積だが、そこで穫れたイチゴが朝食に出れば、菜園としての役目は十分果たしている。

背伸びしなくていい。まずは今あるプランターを台に乗せて、1週間だけ試す。それで「これは楽だ」と体が感じたら、そのとき初めて枠を買えばいい。

よくある質問(FAQ)

Q. 高設栽培にすれば、腰痛は良くなりますか?

そうした効果を保証するものではありません。本記事で言えるのは、作業のしかたを変えることで前屈・中腰の姿勢を取る回数と時間を減らせるということだけです。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」も、不自然な姿勢を取らないこと、取らざるを得ない場合は程度・頻度・時間を減らすことを対策として挙げています。腰や膝に痛み・持病がある方は、作業内容について必ず医師にご相談ください。

Q. ベランダでもできますか?

小型のものならできます。ただし重さと水に注意してください。土は1リットルあたりおおむね0.3〜0.5kg(水を含めばさらに増える)で、大型のレイズドベッドは土だけで100kgを超えます。建築基準法施行令第85条では、住宅のバルコニーの床の構造計算に用いる積載荷重を1平方メートルあたり1,800ニュートン(およそ180kg)としていますが、これは設計上の想定値です。大型は避け、小型を分散して置くのが安全で、集合住宅では管理規約もあわせて確認してください。排水口や避難経路をふさがないことも大切です。

Q. 費用はどのくらい見ておけばいいですか?

選ぶ製品で大きく変わるため断定はできませんが、見落とされやすいのは枠代より土代です。90cm角・深さ30cmのレイズドベッドなら培養土がおよそ243リットル、25リットル袋で約10袋分になります。まずは今あるプランターを台に乗せて0円で試し、高さと水やりの手間を確かめてから、小さめのキットに投資するのが無駄になりません。

まとめ──畑を持ち上げれば、菜園は続く

  • 高設栽培とは、作物を地面より高い位置で育てる方式。プロのイチゴのベンチ栽培も、家庭のレイズドベッド・脚付きプランターも同じ発想
  • 研究報告では、地床栽培の収穫作業は時間の88%程度が30度以上の前屈、高設栽培は20度以下が99.1%。かがむ動作を減らせる(腰痛が治るという話ではない)
  • 高さは肘が約90度になる高さが目安。立って使うなら70〜90cm、腰かけて使うなら40cm前後
  • 弱点は初期費用・乾きやすさ・土の量と重さ・深い根菜に向かないこと
  • 家庭では①台に乗せる(0円)②脚付きプランター ③レイズドベッドのキットか自作の順で試すと失敗が少ない
  • 土は90cm角・深さ30cmで約243リットル。ベランダに置くなら重さを必ず考える

腰を折るな。畑のほうを持ち上げよ——高設栽培の思想は、この一行に尽きる。体をいたわりながら、マイペースに続けていこう。

参考・出典

すべて2026年8月25日にアクセスして内容を確認した。

  • 長崎県総合農林試験場「長崎県型イチゴ高設栽培システムの開発と栽培技術の確立」(藤田晃久ほか、長崎総農林試研報 農業部門35、2009年) https://www.pref.nagasaki.jp/e-nourin/nougi/theme/research_report/PDF/35-2.pdf ― 高設栽培槽は株元面がおおむね80cm/地床栽培は作業時間の88%程度が30度以上の前屈・高設栽培は20度以下が99.1%(同報告が引用する宮嵜朋浩・片岡正登(2004)による)/イチゴの10a当たり所要労働時間2,000時間以上と中腰姿勢/培養土量4.8L/株と減量区の収量/培養土は10年程度連用可能/養液栽培のコスト高が普及の障害
  • 農林水産省「園芸用施設の設置等の状況(平成30年)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/sisetsu/haipura/setti_30.html ― 第2(1)-1 野菜(いちごの栽培延面積36,972千㎡)、第2(1)-2 野菜(うち養液栽培)(いちごの栽培実面積6,845千㎡・栽培延面積7,230千㎡)
  • 厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針及び解説」 https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001376468.pdf ― 動作要因としての「不自然な姿勢(前屈・ひねり・後屈ねん転等)」/「前屈、中腰、ひねり、後屈ねん転等の不自然な姿勢を取らないようにすること」/「作業台の高さは肘の曲げ角度がおよそ90度になる高さとすること」
  • 農林水産省「農作物被害状況」(全国の野生鳥獣による農作物被害状況) https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/index.html ― 令和6年度の被害金額188億円、被害面積4万4千ha、シカ79億円・イノシシ45億円
  • e-Gov法令検索「建築基準法施行令」第85条(積載荷重) https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338 ― 住宅の居室の積載荷重は1㎡あたり1,800N。屋上広場・バルコニーは同(一)の数値による(学校・百貨店用途は別)
  • 農研機構ほか「大規模いちご生産技術導入マニュアル」(革新的技術開発・緊急展開事業、北海道拠点) https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/Large-scale_facility_gardening_manual_Strawberry.pdf ― 高設ベンチの構造(点滴チューブによるかん水、有機混合培地・ロックウール等の培地)

※必要な土の量・重さは寸法から計算した概算です。製品ごとの実容量、培養土の比重は商品表示をご確認ください。

あわせて読みたい

─ 産地直送・目利き保証 ─

🏮 さんぼう君の新鮮市場

現場を知る大将が「間違いない肉と野菜」だけを並べました。肉のふるさと納税・お取り寄せ・野菜定期便 →


─ さんぼう君よりひとこと ─

この記事は、和牛農家の息子としての経験と、飼料営業として全国の現場で見聞きしたことに基づいています。 個別の経営判断は、必ず担当の税理士・士業・JA・農業委員会等にご相談ください。

この記事を書いた人

さんぼう君

和牛繁殖農家・野菜農家の息子。実家の「売り先が限られている/やり方次第でもっと稼げるはず」 という課題を追ううちに、畜産・農業経営の知識を深く積み上げてきました。 現場で学んだ「リアルな農業経営」を、業界外の人にもわかる言葉でお伝えしています。

→ さんぼう君について詳しく